「星になりたい」
                          貴方は言った。黒い夜空で一人輝く、星になりたいと。
                         「あなたは十分、輝いているじゃないですか」
                          俺は答えた。
                          無神経な答え。貴方の事を少しも考えていない答え。
                          今思うと、自己嫌悪に陥ってしまう。
                          貴方は強く、言い直した。
                         「あの夜空に輝く、星になりたい」

                              さな秘密  

                          夏が近づく今日この頃。屋根の上に居る俺が見上げる夜空には、
                          うっすらと夏の大三角形が見えるようになっていた。
                          でも、俺はそれを見ている訳では無かった。
                          そこから右に少しだけ目線をずらすと見える、きらきら光る小さな星。
                         「今日も綺麗ですね」
                          その星に向かって俺は話しかけている。
                          周囲から見れば絶対に変な奴だ。
                          しかも、これを毎日繰り返しているなんて、明らかに怪しい。
                          まぁ、見つからないように心がけているのだけれど。
                         「一人で淋しくないですか?」
                          小さな星は、周りの星を全て弾き飛ばしたかの様に ぽつんと、
                          でもきらきらと輝いていた。
                         「俺は、少し淋しいんですよ。」
                          1ヶ月程前、貴方が傍に居なくなってから。
                          急に笑って目を閉じて、それ以来動かなくなって。
                          どこか、遠くに行ってしまって。
                          俺は凄く悲しかった。生きていたくなかった。
                          空なんて見上げる余裕も無くて、毎日を虚ろに過ごしていた。
                          でも、ある日を境に、俺は生きる希望を見つけた。
                          空を見上げた日。
                          大空に輝く小さな星を見つけて。
                          それが貴方なのだと気付いて。
                         「夢が叶って良かったですね。」
                          貴方の夢が叶う事によって、沢山の人が悲しんだけれど。
                          でも俺は、貴方が幸せであるならそれでいい。
                          だって、たった一つの夢だったんでしょう?
                          人を斬る事しかない人生の中で貴方が見つけた、
                          たった一つの夢だったんでしょう?
                          星に向かって にこっ と微笑むと、
                          星も一回、きらっ と光った気がした。
                         「おーい、山崎、何してるんだ?」
                          屋根の下から土方さんの声がした。
                          彼は気付いている。俺がいつもここに居る事に。
                         「何でも無いです。」
                          俺が答えると、彼は只、
                         「そうか、飯だぞ」
                          とだけ言って、室内に入っていった。
                          彼なりの優しさだ。彼も俺と同じくらい、
                          いや、俺よりも傷ついているというのに、まだ人の事を気遣ってくれる。
                          ごめんなさい。でも、死んだ人と話しているなんて教えられないんだ。
                         「御飯ですって。じゃあ、もう行きますね」
                          俺は星に向かって言うと、するっ と屋根の下に下りた。
                          そんな俺頭の上で、きらりと星が瞬いた。
                          俺が毎晩、ここで何をしているのかは、
                          沖田さんと俺。
                          2人だけの 小さな秘密。
                                                 fin*
                                                 沖田総受祭さまへ献上致します。
                                                                                                      2006.8.23   mi harukumo
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